猫、砂浜を車で走る。~千里浜なぎさドライブウェイ、たまとオトンの二人旅~

ドライブ

まいど、ワシや。

今回はキャンプちゃう。「ドライブ」や。テントもタープも積んでへん。積んどるのはオトンの気まぐれと、ワシの肉球だけや。行き先は石川県、千里浜(ちりはま)なぎさドライブウェイ。日本で唯一、砂浜の波打ち際を車でぶっ飛ばせるという、ちょっとイカれた道路や。

「海の上、走るぞ」ってオトンが言い出した日

事の始まりは、いつものデリカD:5のエンジン音と一緒やった。

「たま、聞いてくれ。世界には車で走れる砂浜があるらしい」

オトンは真顔でそう言うた。ワシは半目で聞いとった。またこの人、YouTubeで何か見て興奮しとるやつやな、と。せやけど蓋を開けてみたら、これがホンマの話。石川県羽咋(はくい)市から宝達志水町にかけて、約8kmにわたって波打ち際を車で走れる、日本で唯一の観光道路。海水を含んだ砂粒がキュッと締まって、まるでアスファルトみたいに固くなるんやと。

昔、宮本武蔵は「千里の道も一足ずつ運ぶなり」いう言葉を残したらしいけど、千里浜はちゃう。一足どころか時速うん十キロで運ぶんや。武蔵先生もびっくりの北陸仕様や。

いざ、波打ち際

現地に着いたらまず度肝を抜かれたわ。目の前に広がるのは、青い空と、白波が押し寄せる日本海。そんでその手前に、車のタイヤ痕がスーッと続いとる砂浜。海と道路の境界線が曖昧いうか、もはや無いいうか。

「ここ、ホンマに走ってええんか……?」

オトンがビビりながらアクセルを踏む。ワシは助手席(正確には膝の上)で「行けオトン、砂は裏切らへん」と念を送った。走り出したら不思議な感覚や。ハンドルを握っとるのに、目線の先には波が寄せては返す。松尾芭蕉が『おくのほそ道』で北陸路を歩いた時、こんな景色見て「あかん、これは詠まなあかん」ってなったんとちゃうか。芭蕉は歩いて感動したけど、ワシらは車で感動しとる。時代は変わったで。

窓を開けたら潮の匂いと、タイヤが砂を噛む「シャッ、シャッ」いう音。波打ち際すれすれを攻めるオトンに「海水かかったら錆びるで、ほどほどにせえよ」と釘を刺しつつ、ワシもこっそり楽しんどった。海と道路の境界線を走るいうのは、なんや人生訓めいたもんがある気がしたわ。安全なとこだけ歩いとったら見れへん景色が、ちょっと踏み出したとこにあるいう。

寄り道した岩場と、海の贈り物

ドライブウェイだけやのうて、能登の海岸線もちょこちょこ寄り道したった。断崖から見下ろす入り江、波が岩を削ってできたトンネルみたいな洞門、岩の間をちょろちょろ流れる小さい滝……。千里浜のなだらかな砂浜とはまた違う、荒々しい日本海の顔がそこにはあったわ。

自然いうのは律儀なもんで、何万年もかけてコツコツ岩を削って、こんな景色作り上げとる。ローマは一日にして成らずって言うけど、この岩のトンネルも一日にして成らずや。気の長い話やで、ホンマ。

岩の隙間からピューッと吹き抜ける潮風に吹かれながら、オトンが「こういう景色見ると、悩んでたことがちっぽけに思えるな」ってポツリ言うた。ワシは「ワシはメシのことしか考えてへんから元々ちっぽけやで」と返しといた。猫は悟っとるんや。

帰り道、思うたこと

千里浜を後にする頃には、夕方の光が海に反射してキラキラしとった。窓の外を眺めながら思うたんは、旅の醍醐味て「非日常」やのうて「境界線をちょっと越えること」なんちゃうかいうこと。海と道路の境目、日常と旅の境目、オトンとワシの境目(毛だらけの膝の上やけど)。

そんな境界線をひょいっと跨ぐたびに、ちょっとだけ世界が広う見える気がするわ。

今度はどこ行こうか、オトン。次はちゃんとキャンプ道具積んでな。

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