『鍋の中で全員、急に素直になる』とは、誰かの名言か、それとも単なるオトンの口癖か知らんが、丹波篠山の夜、その言葉を体現するような光景があったで。ワシは猫である。名前はたま。焚き火料理には基本的に興味がない。……という建前で、実際にはめちゃくちゃ覗いとった。
三本の脚が組まれて、そこから吊るされた黒いアルミの鍋。中を覗いたら、舞茸やらエリンギやらが「ワシら、先に炒められて苦労しました」みたいな顔でひしめいとって、そこに白菜と豆もやし、青ネギがドサッと追加された。ゴマもパラパラ振られて、なんや儀式めいた雰囲気や。
軍の払い下げ品らしいこのメスキット、聞けばチェコ共和国軍の実物やて。ワシからしたら「軍」も「共和国」も何のこっちゃ分からんが、とにかく頑丈そうな面構えをしとる。取っ手のついた無骨な佇まいは、煮込み界のベテラン下士官、いうとこやろか。
火にかけられた鍋がグツグツ言い出す横で、網の上には別件で唐揚げが転がっとった。衣がパリッと色づいて、脂がジュワッと弾ける音。ワシの鼻はレーダーみたいにピクピク反応したんやけど、どうせあれもワシの取り分はゼロや。カリカリの匂いとは違う、なんや罪深い匂いやったで。
野菜も肉も、最初はそれぞれ勝手な顔しとったはずやのに、火にかけられたらだんだん丸くなっていく。もやしは大人しゅうなり、白菜は透き通り、キノコ勢は出汁を出す係に徹しよる。まるで人生である。いや、人生というより、だいたいキャンプ場の夜である。
――結局、今日もワシの食卓はカリカリや。鍋も唐揚げも、全部「見るだけ」の展覧会。せやけど、焚き火の匂いを嗅ぎながら高みの見物するいうんは、それはそれで悪ない特等席やと思うわ。
そう自分に言い聞かせながら、ワシは焚き火の脇でまた丸くなるたまなのであった。
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