遠征の支度、されどワシには関係のない話

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玄関先に段ボールみたいなデカい袋がドン、と置かれた朝やった。ワシはリビングの窓辺からその一部始終をジトーッと見張っとってんけどな。

まず引っ張り出されたんが、丸めた布の塊。広げたら、あれよあれよという間に骨組みが生えて、部屋の隅にポコッとドーム型のもんが出来上がってしもうた。ワンタッチテントいうやつらしいけど、人間って不思議な生き物やな。家の中にわざわざ小さい家建てて満足しとるんやから。ワシからしたら、段ボール箱一個あったらそれで十分やのに。

そんで次に出てきたんが、寝袋いうやつや。ふかふかの筒みたいなんを広げて、匂い嗅いだら――あかん、これはワシの寝床にちょうどよさそうな匂いやん。エアマットいう浮き輪みたいなもんまで一緒に膨らませとって、正直ちょっと羨ましかった。せやのに「危ないから」言うて、リュックにギュウギュウ押し込まれてしもた。納得いかんわ。

キッチンの方では、シングルバーナーとかいう小さいコンロが火花パチパチ言わせて青い炎あげとった。鍋がコトコト言い出したら、ワシの鼻はレーダーみたいにピクピク反応するんやけど、どうせあれもワシの取り分はゼロや。カリカリの匂いとは違う、なんや香ばしい匂いやったで。

洗面所の棚からは、虫よけスプレーがシュッシュッと音立てとった。あの独特の匂い、ワシは正直あんまり好かんのやけど、人間には必要なもんらしい。夏場の外いうんは、蚊にとっても宴会場らしいからな。

リビングの隅では、折りたたみ椅子と小さいテーブルがパタパタ組み立てられとった。ワシの爪とぎ台よりコンパクトに畳めるんが、ちょっと悔しいところや。ランタンにも灯りが入って、オレンジ色の光がポッと灯った瞬間、ワシの瞳孔はキュッと縦長になってしもた。あの光、正直言うてキャットタワーのてっぺんから見る夕焼けよりちょっとだけロマンチックやったかもしれん。ちょっとだけやで。

クーラーボックスに保冷剤がガチャガチャ詰め込まれて、最後にリュックのジッパーがジーーッと締められた頃には、玄関はもう出発ムード全開や。「たま、留守番よろしくな」て頭ナデナデされたけど、ワシは「はいはい」言わんばかりに前足で顔洗うふりして誤魔化したった。

――結局、今日もワシは家の中がキャンプ場や。ソファがワシのテントで、日向ぼっこがワシの焚き火や。せやけど、これはこれで悪ない縄張りやと思うんやけどな。

そう独りごちながら、ワシは丸まった寝袋の跡が残る絨毯の上で、また丸くなるたまなのであった。

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